関係悪化(イベント)

#幻の鯛を巡る競り

 経済戦争、市場戦。
 度重なる資金の波紋に、商業界は踊るに踊った。結果としていくつかの企業が倒れたりもしたが、一年を振り返れば、まあでかい企業の一つや二つ崩れることだってあるだろう、という物だ。

 なにしろここはNWなのだから。

 それでもまあ、人々の営みは日々続く。彼らからしてみればようやく一段落し、来年こそはもっと平和な良い年をと、祈って過ごす今日この頃。


 年末を迎えた人々の祭典が、始まろうとしていた。



/*/

 その日、光の国の一角にある魚市場は異様な熱気に包まれていた。
 いやまあ、異様というほど異様でもない。
 年末商戦、各種あるバーゲンセールその全てを勝ち抜いてきた歴戦の主婦・主夫達にとってそこは古巣。長らく帰る日を待ち望んでいた日常の戦士達の集う場所。
 そう。戦士が戦場に戻ってきて昂奮しないはずがない。

 年・末・商・戦

 そう、その言葉は幾千万の戦場を越えた主婦・主夫達の集わせる、キィワードであった。
 先の市場戦や経済戦争の影響で例年より開始が数日遅れたものの、逆にそれがにぎわいに火をつけたようでもあった。

 ――そしてその最後の場所。光の国の魚市場には、その中でも最精鋭足る強者達が集まっていた。

 幻の鯛、と呼ばれる滅茶苦茶うまいらしい鯛が、競りに出されるからであった。

 彼らは、色めき立った。
 そして戦いが、始まった。具体的には競りである。
 まず、目玉商品にはなれないがそれでも上等な魚たちが次々に売られていく中、彼ら歴戦の強者達は虎視眈々と時を持っている。
 ここで買いに出る初心者など敵ではない。彼らは戦友(パートナ)にして敵対者(ライバル)。互いのことはよく知っている。歯ぎしりし、怒り、悔し涙をこぼし、時には喜びを分かち合う――今やそこには友情さえ築かれていた。彼ら猛者達の絆は伊達ではないっ!

 そうっ! そこにあるのはっ、ただ互いの力と度胸を信じる戦士達の熱き魂っ。

 常日頃の人間関係とは隔絶された、喜怒哀楽が混じり合う戦場。

 競りも後半。初心者達があらかた脱落したその瞬間、

 ついにっ!

 注目のメイン・フィッシュ。

 幻の鯛がっ!!

 そのっ、姿をっ、現した!!!

/*/

 今ここに。戦いの火蓋が、切って落とされた。


#出馬表-FEG漁港主催、年末大競り市[幻の鯛]-
枠:番:名前:評価:前走の成績:コメント
1:1:川原雅:◎:マグロ1匹:オーレ、楽しみにしててね
2:2:自称是空とおる:○:カジキ1匹:俺のダガー捌きを見せてやるっ(注:これは競りです。捌く必要はありません。(直後愕然とする自称是空))
3:3:久珂晋太郎:○:いっぱい:あゆみー、もうすぐ帰るからー
3:4:松井総一郎:-:タコ:いや俺はただマリネを作ろうとしただけで鯛は……(突然の女性の乱入、説得っぽいものをされて戦場に戻ってくる)
4:5:お面のへたれ:×:イカ:ふ。
4:6:ペンギン:△:高級伊勢エビ:ぐぁ


#競り:スタート
 くせっけの女性、本日の実況メイドがカメラを向けられて表情を改める。隣で晋太郎さーんと手を振っていた竜を連れた女性が手を振っていたのをとめた。
 すりー、つー、わん。
実況「始まりました、今年最後の大商戦、大競り市。本日の実況は私、松井いつかがおおくりさせていただきます。解説はこちら」
解説「はい。やっぱりあの人は国一番の主夫だと思うんですよ。ね、竜太郎」
実況「惚気から誰かわかると思われるので次に進みましょう。あ、総一郎。・負けたら許しませんから。で、それはともかく」
解説「はい。ああ、ついに始まりましたね。まずは緩やかに値段が上がっているようです。まずはペンギン氏がフリッパーを上げて20にゃんににゃん。お面のへたれさんがつり上げて50」
実況「……総一郎?」
解説「おっとここで総一郎氏、何故か体を震わせて100。もう100です。順調どころではありません。早くもハイペースを感じさせる展開となってまいりました。おーっとここで自称大統領、500。500です。そんなお小遣いあったかなぁ……」
実況「ついさっき、そこでダガーで曲芸やってお金を集めてましたよ。そこの子と」
竜太郎(乱入)「うん。がんばったんだぜ」
解説「は、恥ずかしい……えっと」
実況「それよりも解説を。今回の競りについてですが」
解説「あ、はい。今回の競り市は、食料の安全宣言も兼ねたデモンストレーションという意味合いも含まれています。普段よりこの年末商戦のラストを飾る魚市場の競り市は盛り上がりますが、今年は特に盛り上がっていますね。まあここでの売り上げ自体は実は大したことないんですが」
実況「そうなのですか?」
解説「みんなで楽しみたくて結構無理してるんですよ。だからこれだけもりあがってとんとんですね。でも楽しいからって毎年続いてます」
実況「なるほど。おっと! ここで今まで沈黙していた川原氏が立ち上がりました。……な、なんと」
解説「これはっ!」


#競り:中盤
 川原は勝負に出た。1000にゃんにゃん。1000にゃんにゃんである。それまで500,550,620,700と争っていた総一郎と晋太郎を突き放すハイロール。
 負けられない。爽一郎の薬を探しに来た麗華さんに、薬の受け取りができるまでの間猫屋敷の留守番をしてもらっているのだ。その彼女に報いるためにもここはっ。
 川原が数字を示した瞬間、二人はうっとうめいた。流石にそこまでは出せない。方や家計を、方や店の経営費を預かる立場である。うっかり出すにはその価格はでかすぎる。
(なお、慣例として年末商戦ではマイルからの変換や国庫からの支出は無しなのである。そんな事をしたら『士道不覚悟』の烙印と共に追い出されること請け合い。)

 川原は笑った。勝った。この瞬間そう思った。どうでもいいがキャラ違わないか?

「ぐぁ」

 しかしここに、思わぬ伏兵がいる。

「ぐぁ、ぐぁ」

 ペンギンがフリッパを振る。それが示すのは(どうやって?)1500。なんと1500にゃんにゃんである。
 うっと川原が言葉を詰まらせる。これ以上の予算は……厳しい。猫屋敷の猫たちに、オーレに、なんとしてでも美味しい鯛を食べさせてあげたいけれど……これはっ。

「へっ。甘いぜ師匠」

 ダガーを片手に立ち上がる自称是空とおる。
 彼にも決めたことがあるのだ。今日くらいは王猫に、いいものを食べさせてあげたいと。どうでもいいが人間は喰わんのか人間は。
 しかしそんな内実を知らない者からすれば、誰がどう見ても文句なく格好良く、彼は右の手のひらを掲げた。
 指、五本。それが示すことは、すなわちっ―――!

「な、なんとっ。ここで5000。5000にゃんにゃんがでました――――っ!」


#競り:電撃3ハロン

解説「な、なんとっ。ここで5000。5000にゃんにゃんがでました――――っ!」
実況「これは、さすがに……きっと今までこつこつ貯めた貯金を切り崩す事まで考えますね。きっと。男前です。……流石に無理ね……ええ、引いてください。総一郎。――こほん。えー、どうやら流石に会場もどよめいています」
解説「松井さん、動揺しすぎです」
実況「はっ」
解説「どうやらここまででしょうか――でしょうね。流石にこれ以上の高額を出せる人物はここに、は、―――って、え―――――――っ!!!」
実況「なんと。ここで川原、5100です。いえ、しかし自称是空負けずと5200。5300。しかしもうこれは……誰にも入り込めません」
解説「すごい戦いになりました……さすがは自称とは言え大統領と尚書名乗るだけあります。おそらく個人資産も切り詰めればずいぶんになるのでしょうね。すさまじく熱い戦いです」


#そして……

 ふっ。
 お面の男は立ち上がった。これまで無言を貫いていたこの人物は、ここにきてついに、そのへんで適当に買ったお面の下で笑った。
どうでもいいがリワマヒの某お兄さんの真似でもしているのだろうか。
 会場がどよめく。熱くなっていた川原と是空が振り返った。二人は(まずい、こんなに予算ないかも……熱くなりすぎたーと思って)さっと青ざめた。

 彼は堂々と、両手を挙げた。

 どよめき。

 彼の指が示していたのは、八本。

 それすなわち―――

「……決まりだな。僕の勝ちだ」

 8000にゃんにゃんで、幻の鯛は競り落とされた。


#その後
「すごかったよー、みんな」
「ですね。昂奮しました。総一郎は後で部屋に来るように」
「……はい」
 競りが終わった後。今年最大の市場が閉鎖され、空気はすっかり穏やかになっていた。最大の競り争いをしていた自称大統領と自称尚書とお面の人物も、最後、見事なまでの大金投下で幻の鯛を競り落としたお面の人物と笑顔で握手をしている。
 二人とも心の底からの笑顔を浮かべていた。実は懐が心許なかったのにかけ過ぎていたらしい。
 一方お面の男も、「いえ、これくらいはたいしたことありませんよ」と言って、にこやかに去っていった。彼としては何か満足するところがあったらしい。
 その光景を見ていた晋太郎が、あれ、と首をかしげた。
「ねえ。もしかして川原さん達、あのお面の人の正体……」
「気づいてないんですかねー。あ、でもぜくーさんは気づいてるみたいですね。今でこそすっごく助かったみたいに握手してるけど、さっきまでダガー放しませんでしたし」
「へー。これってある意味友好になったって事?」
「んー。そう、かも?」
 旦那の言葉に首をかしげるあゆみ。苦笑する松井夫妻。
 勿論、彼らは競りに夢中になりすぎて、些細なことには気づいていない。
 ペンギンが、ぐぁ、と言った。

 年末の戦いは終わった。数多いる敵対者達との宴も終わり、歯ぎしりは笑顔に、怒りは互いをたたえる賞賛へと姿を変えて、この市場の今年最後の宴は、幕を、閉ざす。


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 ところで。後に川原と是空は述懐したという。
「熱くなりすぎました」
「ああ。やりすぎた。こう、つい夢中になってな」
「気づいたときにはちょっと出せない価格で」
「俺もう当分競りはやらねぇよ。相性が悪いと実感した。うん」
「はい。私も少し競りからは距離を置きます」
 二人と競りの関係悪化は、ごくごく些細な問題である。

 というのも。だって、

 どうせ来年の競りにはまた姿を現すに決まっているのだから……。

/*/

 さらに余談。
 競りの翌日、川原が猫屋敷に帰ってくると、そこには競りのがしたはずの幻の鯛があった。
 川原はおやと首をかしげたが、オーレが嬉しそうだったので、まあいっかと思う事にした。
「あ、そういえば麗華さん」
「はい」
 ぱっと面を上げる麗華。爽一郎の薬は今日の午後には届くという話である。
「この幻の鯛ってね」
「……川原さん。私、いまそういう気分じゃなくて……」
「ごめんなさい。えっとね。きっと目を覚ました爽一郎さんが食べたいと思うだろうから、少し持っていかない?」
「……川原さん」
 目を丸くする麗華。苦笑する川原。
「留守番のお礼にね。それと薬を運ぶのを急がせるから」
「……っ。ありがとうございます」
「元気になって。そうしたら二人で食べて、感想を聞かせてね?」
「……は、い」
 麗華は泣きそうになりながら、頷いた。


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